平成ホスト伝 藤茂

名古屋ホストクラブ。平成の時代。

新人ホストとしてデビューした私だったが、入店して2ヶ月以上経過しても、お客様がなかなか掴めない状態が続いていた。

入店から3ヶ月をすぎると保証給がなくなり、完全に歩合給に変わる。
更に、一週間に2回、強卓(お店にお客さんを呼ぶノルマ)があり、指定の日にお客様を呼ぶことが出来ないと2万円の罰金が課せられるのだ。

入店時に店長の佐倉さんに

「3ヶ月やってみて嫌だったらすぐ辞めろ」

なんて言われたが、そんな事言い出せる雰囲気もない。

…というより怖くて言えない。

【藤茂シリーズ過去記事】

ホストクラブZの給料体系

私が働いていた名古屋のホストクラブ、「ホストクラブZ」では、強卓罰金や未収で多額のマイナスを抱えている先輩ホストが何人もいた。

お金に苦しむホスト

 

※未収とは、「つけ」でお客様を飲ませる事。「つけ」を回収出来なかった場合は、担当のホストの給料から天引きされるシステム。

真っ当な世界に生きる人達にはまったくもって理解できないかもしれないが、働いた給料よりも罰金が上回り、無収入どころか、逆にお金を払わされることも珍しくない。

逃げることはできない(怖くて)

先輩ホストがそんな目にあっているのを差し置いて、自分だけ「辞めたい」なんて絶対言えない。
飛ぶことも考えたが、それも簡単ではない。
当時飛んだ従業員がどんなひどい結末を迎えたかという噂を色々聞かされていた。

名古屋ホストクラブ伝説

身長190㌢超えの龍二さんが実家まで探しにきて否応なしに土足で侵入→そのまま拉致→ボコボコにされる

そんな事が過去にあったとかなかったとか…

でも、これはきっと本当だ。
あの人ならやると思う。
きっと、あの純白の外車に乗せられてどこか怖い場所に連れていかれるのだ。
飛んだと言われている元ホストたちは、実は飛んだのではなくて、山奥のダム工事や遠洋のマグロ漁船にいるかもしれないな。
いや、もしかしたらそれ以上のことも…。

龍二さんのあの見た目だ、凶暴なことをしていない訳がない。

臆病な私には、こんな恐怖に耐えれるわけがない。

龍二さんに「働いてお金返そうか?」なんて言われたら、絶対に断れない。
無理だ…。逃げることはできない。

収入の無い苦痛よりも、逃げられない恐怖が上回っている。
ホストを辞める、飛ぶという選択ができない私には、ホストクラブZで働き続けるしかなかったのである。

「送り」がとれない新人ホスト時代

平成ホストクラブ藤茂

そんな葛藤を繰り返しながらもホストとして、ホストクラブ内での接客は少しずつ慣れてきた。
自分なりの手応えもあった

ただ…

お店にきてくれた飛び込み新規のお客様の送り指名がとれない。

考えて考えて、
あらゆる切り口のトークでお客様を盛り上げようともまったく送りがとれない…

すべて先輩ホストたちが持っていってしまうのだ…

当時の私にはまったく理解できなかった。
だが、今ならわかる。

今だからわかる「送り」が取れなかった理由

答えは単純だ。先輩ホストたちは真剣だったんだと思う。
私や、同じように送り指名の取れないホストたちとは比べられないくらいに。

それはそうだ。

新人ホストだろうが、ナンバー陣だろうが、幹部だろうがお客様は常に欲しい。

現状売れていようと、もしお客様がいなくなったら、多額のマイナスを抱える可能性もある。
かたや、マイナスを抱えているホストだってそれから抜け出す為に皆、必死だ。

とにかく、ホストは皆、結果が出なければ”明日は我が身”となる
そう、まさに”背水の陣”なのである。

「仲間に遠慮せず、全力で挑む」

これこそがホストクラブで働く醍醐味であり、ホストクラブを成り立たせるものだったかもしれない。

皆が全力の「送り競争」をしていた。
当時の私は、その激しさに気付いてすら居なかったのだ。

キャッチの毎日

3ヶ月そこそこの新人ホストである私が勝てるはずもなく、相変わらず路上でのキャッチに明け暮れる。

名古屋ホストの路上キャッチ

入店当初よりは少しずつキャッチに慣れてきた。
名古屋の繁華街で腰を据えてキャッチをすると、数人は初回に呼べるようになってきたが、次に「リピートしてくれるお客様がいない」という壁に当たる。

「まみさん」との出会い

名古屋、栄、女子大、住吉。飽きるほど声をかけて、苦労の末に初回料金で入ってもらうのだが、次がない。
この「リピートに繋げる」というスキルはとても難易度が高く感じていた。

そんな中、ある女性と出会うこととなる。

出会いはもちろん、キャッチ。名古屋の栄で歩いていた所に私が声を掛けたのがきっかけだ。
「まみさん」という名前で、私より年齢も7つくらい上だったような記憶がある。
とてもキレイな女性だった。

電話番号やメアドを交換してまめに連絡していると、しばらくして、新規に来てくれた。
そして、新人でお金のない私を良く食事に連れていってくれた。

他店のナンバーのホストを指名していたようだし、なぜ新人の私に優しくしてくれたかは今でもわからない。

藤茂を変えた「まみさん」の一言

当時、私は”リピートしてくれるお客様がいない”悩みを抱えていたので、思い切ってまみさんに相談してみた。

まみさん!僕、新規は呼べるのになんで皆正規で来てくれないんでしょう

そんなに僕って魅力ないですか?

するとまみさんはこう答えた。

まずアナタ。その敬語辞めなさい。
私ともこれだけ連絡とってて、いつまでそんな話し方するつもり??
だから皆、アナタとの距離を感じて離れていくのよ。

たしかにアナタは若いからお客さんの女性がほぼ年上なのはわかる。

でもよく考えなさい。
女性は年関係なく女性として見てほしいし、頼りがいのある男に惹かるもの。

そんなよそよそしい感じではいつまで経っても正規でなんて来てくれないわ。
結論だけど、はっきり言って女性がリピートしないんじゃなくて、アナタの方からリピートしづらくしているのよ

ショックを受けるホスト

まみさんの言葉は、私の心に突き刺さった。

そこからもう一度自分を見つめ直し、私は女性への接し方を変えた。

自分に自信をもち、頼りがいがあるように。
自分の年齢のことは忘れて全力でお客様に接客する。

こころなしか、お客さまの笑顔が少しづつ増えてきたかな、というころ、まみさんが店に来てくれた。

これがはじめての正規。
そう、私にとってはじめて正規で来てくれたお客様こそ、この「まみさん」であった。

さらにまみさんはこの日、私にはじめてのシャンパン「ドンペリニョン」を入れてくれたのである。

新人ホストのはじめてのシャンパン ドンペリ

今でもこの日の事ははっきりと覚えている。
私の壁であったリピート客を達成できた上に、はじめてのドンペリまで入れてくれた。

今でもまみさんには感謝している。

これはどのホストにも言える事だと思うが、
はじめてシャンパンをいれてくれたお客様の事、ホストは絶対忘れないと思う。

まみさん、この記事なんて絶対に見ていないだろうし、万が一見てたとしてもわからないだろうけど、まみさんへの感謝は今でもずっと忘れていません。

ありがとうございました。