名古屋ホスト伝説

前回お話したとおり、ホストを志した私は知人の紹介を伝って、代表である強面の龍二さんに案内され、ホストクラブ何店舗かを回った。私が在籍する店舗を決めるためだ。

グループのホストクラブを一巡して、最後に体験に訪れた店舗こそ、後に私が入店することを決めた「ホストクラブZ」だった。

ホストクラブの店舗に到着したのは深夜4時頃。
場所は名古屋ホストクラブの名所である女子大小路。
近隣の路上は、フィリピンパブの客引きをする外国人で溢れかえっていた。

女子大ホストクラブ

店は、とある雑居ビルの3階にあった。

エレベーターが開くと、店舗名を掲げた大きな看板があった。
龍二さんの後ろについて、ドアをくぐる私。入口にナンバー1.2.3の写真が大きく飾られているのが目についた。

さらに中に入っていくとホスト達が大きな声で挨拶をした。

「代表おはようございます!!!!」

それに対し龍二さんも挨拶を返す。

「おう!おはよう!今日一日体験来た藤茂くんだ!みんな宜しく頼むな!」

きびきびと大きな声で、体育会系のような挨拶であった。

私も先輩ホスト達に軽く挨拶をし、廊下を抜け、ホールへ。

ホストクラブの王道

そこにはまさに私が想像していたとおりの【ザ・ホストクラブ】といえる光景があった。

今ではこういった内装の店舗は少ないかもしれないが、ブラックライトや泡の出るインテリア水槽、そして奥には生バンド、黒を基調とした広いホールに満席で活気づく店内。

私は緊張しながらも、過去に体験したことのない高揚を感じたのを今でも鮮明に覚えている。
確実に心は動かされた。今思えば、この瞬間に私はこの店舗で働く事を決めたのかもしれない。

この店に決めた二つの理由

女子大ホストクラブ伝説

何店か回ったホストクラブの中からこの店に決めた理由は2つあった。

1つ目の理由は、店長からのある言葉だった。

この日、まず、私はこの店の「店長である佐倉さんの席」につかせてもらった。

この佐倉さんの第一印象は、「怖い」だった。
無口で無表情でとにかく怖いのだ。
しかし、一見冷たく見える瞳の奥には妙な色気をまとった美しさがあり、なんというか、華があった。

お店の中でこの人の存在感は凄かった。
店長がそこにいるだけで周りの空気が違うのだ。

私がヘルプ椅子に座ると店長は私を無言のまま直視してくる…
心の奥を覗かれているような深い眼差しだった。

ドクン、ドクンと、自分の鼓動が速まっていくのがわかる。

数秒の沈黙が流れたあと、佐倉さんは私に向かってこう言った…

「お前、この店入れ。3ヶ月やってみて嫌だったらすぐ辞めろ。」

その言葉は、私の心に深く刺さった。

このときの私の心に引っかかっていた、「決断をしてしまったら引き返せないのではないか?」という気持ちに、逃げ道を与えてくれたのだ。

入店したあとに、辞めさせてくださいと伝えても、きっとこの人なら受け入れてくれる、そんな気がした。

これが一つ目の理由だった。

ナンバーワンホストとの出会い

2つ目の理由は、ナンバーワンホストとの出会いであった。

佐倉さんの席に着かせてもらった後、私は一度キッチンに下がるよう先輩ホストから指示を受けた。

キッチンに入ると、龍二さんがいた。
相変わらずデカい。龍二さんの身長は190㌢を超えており、
万が一、殴られたり蹴られたりしたら命の保証は完全ではないような気がしてしまう。

そして、龍二さんともう一人、ぼさぼさ頭、そして、決してスマートとはいえない体型、いや、はっきりいえばかなりのぽっちゃり体型のホストの姿があった。

(あれ、さっきまでこの人いなかったような…)

と思うや否や

龍二:「お前!何回言ったらわかるんだ!もう朝6時だぞ!」

龍二:「何回言ったらわかるんだ!おい、!聞いてんのか!?」

龍二:「今日も罰金だからな!!!!」

龍二さんが怒声を浴びせている…

怖い、怖いっ…

横から聞いてるだけで最悪な気分だ…

私はなんでこんなところに来ているんだろう。
仮に入店したとして、私も粗相をしたらこのように罵声を浴びせられるのだろうか。
いや、きっとこの感じだと罵声だけでは済まないだろう…。

ホスト 恐怖

怯えている私に代表が声をかける。

龍二「おー藤茂くんいたのか!初日なのにみっともないとこ見せちゃったな。」

龍二「こいつがこの店のナンバー1の羽佐間だ!宜しくな!」

 

!!!!?

 

声にこそ出さなかったが、私は正直、驚いた。
龍二さんの罵声に怯えていたことも一瞬で頭から消えていた。

本当にこの人が!?

その人、羽佐間さんの容姿は、私が想像するナンバーワンホストとは遠くかけ離れたものであった。

このぽっちゃり体型のボサボサ頭の羽佐間さんがいけるなら私でも…

(この人がナンバー1ならば、私にもホストという仕事が務まるのではないか。)
そんな甘い考えが頭をよぎった。
これが2つ目の理由だった。

後に羽佐間さんの凄さを知ることになるのだが、このときの私には、まだ知るよしもなかった。

つづく