夜の街には噂話が絶えない。
今回は、根も葉もない噂話について書いてみる。
12月末。クリスマス。
ホストクラブにとっては、一大イベントである。
私が現役だったころの話だ。
いつも来てくれるお客さんが、赤いコートを着ていた。
ホストクラブに遊びに来てくれるお客さんでは、黒・白・ベージュのコートを多く見かけている気がしていたので、なんとなく気に止まった。
そうしていると、また別のお客さんも、赤いコートで現れた。
「流行っているのか?」
最先端の流行をあまり気にしない自分にとってはどうでもそのくらいにしか感じなかった。
しかし、なぜか、私のお客さんの赤コート着用率が増えていく。
いいかげん、おかしいと思って、お客さんに理由を聞いてみた。
「常磐さんが赤いコートを好きだって聞いたから。」
私はそんなことを言った覚えはないし、好きか嫌いか聞かれれば、好きかもしれないけど、あえて公言するほど好きではない。
誰に聞いたか訪ねていくが、店内の噂話になっているらしいけども、発端の出どころはわからなかった。
増えていく赤コート客
数卓同時に、赤いコートで入ってきたお客さんを接客した。
そうしているうちに、「赤いコートを着ていると常磐の客だと思われてしまう」という逆パターンまで広まってしまった。
どこから始まったのかもわからないことで、根も葉もない噂話が広まっていく。
全く噂とは恐ろしいものである。
当時はSNSもなかったし、直接確認を取る方法もあまりなかったため、ある意味、噂を信じやすかったのかもしれない。
とはいえ、今、夜の街から聞こえてくる噂や、匿名掲示板に書かれている噂話の中には、人を大変傷つける可能性を持つ情報も多々ある。
赤いコートの件は、誰も傷つかない、微笑ましい噂話だったからいいけれど、噂話をするときは、誰かを傷つけないか、よく考えてからするようにしてほしい。